米大学のスポーツ推薦入学のこと

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アスリートの入学基準には「柔軟性」がある

やっと今週も金曜日になってくれました。自分にとっては大きな事務仕事を1つ終えることが出来、いい週でした。マルディグラも終わりましたし。

スタンフォードはスポーツ強豪校

今週ある高校球児の進学先がニュースになっていました。アメリカ西海岸の有名難関私立大学で、その選手の入学許可に関して云々かんぬんという記事も見かけました。私はその方の選手としての実力を全く知りませんが、スポーツ選手のリクルーティングや学業に関して立場上色々とお手伝いをしているので、入学選考に関して一般的な経験を共有したいと思います。最初に伝えておくと、発表が真実ならば彼はスタンフォード大の入学基準をクリアしたことだけは確かです。

入学基準

米大学体育局(アスレチックス)は国内外問わず積極的に優秀な選手をリクルートします。一言で言えば彼らが活躍すれば大学、体育局ともにお金をもたらすからです。ちなみに大学と体育局の予算は完全に独立しています。どちらがお金を持っているか、というと圧倒的に体育局です。資本主義の国でそれが何を意味するかは察して下さい

大前提

コーチは色々なネットワークを使ってリクルーティングリストを作り、大学のアドミッションオフィス(入試はしませんが入試課、と訳します)にリスト内の生徒が入学出来るか、相談します。あくまでもそこで定める基準はクリアしないといけません

しかし言うまでもないですが、一般選抜とスポーツ選抜では基準が違います。後者の入学許可の方が柔軟性(英語でflexible)があります。

HOW FLEXIBLE IS ADMISSIONS WITH RECRUITS?

平たく言えばスポーツ選手として優秀ならば入学基準が緩和される、ということです。また選手として優秀であれば優秀であるほど、その基準は低くなりうる、ということです。例えばですが、以下のサイトにどの程度緩和されるか標準テスト(SAT)の数値が紹介されていました。

How do Stanford’s academic standards for football prospects compare to those of Michigan, Notre Dame, UCLA, Cal, Texas?

Nationwide, football players average 220 points lower on the SAT than their classmates.(全国平均でフットボール選手は同級生よりSATで平均220点低い。)

Atlanta Journal Constitutionという雑誌のデータから

上の記事で読み取れるSAT1000点以下という数字にピンと来ない方がほとんどだと思いますが、どの程度かと言うと、うちみたいな平凡な州立大学の一般生徒の平均を下回る、とだけ伝えておきます。

University of Louisiana at Lafayette Admissions

つまり一般学生と同じ基準を満たして入る子がいれば、そうでもない子もいる、という話です。

在米でスポーツ好きの人なら絶対知っている話として、ノートルダム大学がスポーツ推薦入学選手に求める入学基準の高さがあります。以前OBが基準が高すぎて多くの(選手として有能な)アフリカ系アメリカ人の選手が入部出来ない、という発言をし、それが差別とされ問題になったのですが、一方で他の大学との入学許可基準の差が再認識されました。

Hornung: Irish should still lower standards

一般にスタンフォード大の柔軟性の高さは内外で有名な話です。

標準テスト

アメリカの大学は入試がないので、出願にあたり色々な書類を大学に送り審査を受けます。送る書類の中に標準テストのスコアがあり、上で紹介したSATもその一つです。SATはScholastic Assessment Test、もう一つはAmerican College Testing(ACT)というテストです。お金を出せば何回も受験してスコアを大学に送ることが出来、大学側は一番いいスコアを見て判断をしてくれます。

ところがパンデミック中に試験会場が閉鎖されたり、ソーシャルディスタンスを取るために受験者数を限定したりしたので、多くの大学は受験出来なかった生徒に配慮して提出義務を一旦免除もしくはオプションにしました。この処置によりワンチャン受かるかも、と思う学生が増えIvy Leagueの大学や難関私立大学で出願数が増えました。

この方策はパンデミック後も続いていたのですが、どうもやっぱり学生を選抜する上で標準テストのスコアは必要だ、と考えなおす大学が増えているようです。最近のニュースで言えばMITやダートマス大、そして昨日はイェール大も標準テストのスコア提出を必須に戻したことが判明しました。

Some elite colleges are rethinking SAT requirements

それではスタンフォード大学はどうでしょうか?以下のような説明がありました。

First-Year Applicants

2023年度や2024年度入学にはスコア提出は必須でないことが分かります。よく読むともともと最低点すら設けていないことが分かります。

There are no minimum test scores required to be admitted to Stanford. (スタンフォード大学への入学に必要なテストの最低点はありません。)

Stanford University

つまり学力に関しては主に高校時代の成績(Grade Point Average、GPA)とその他の書類の出来具合で判断していることが分かります。

英語テスト

普通の大学は英語を母国語としない留学生に対し、TOEFLやIELTSといった英語テストのスコアも願書提出時に求めます。ところがユニークなことにスタンフォード大はこのスコアも求めていません。

Q. Are English proficiency exams required?
A. No, we do not require any English proficiency exams. While these exams (TOEFL, IELTS, Duolingo English Test, etc.) are useful in helping us determine our applicants’ English proficiency, you may feel your fluency will be clear in other aspects of your application.

Stanford University

一方で同じ箇所にこのような記述があります。

Please note that fluency in English is a prerequisite for admission to Stanford.(スタンフォード大学への入学には英語が堪能であることが前提条件となりますのでご注意ください。)

Stanford University

通常難関私立大学はリクルーターが候補者に対して面接などをするので、その時点で判断がなされていると判断します。基準点はあいまいですが、少なくとも今回の生徒の場合、訓練して慣れれば同大学での授業についていける、と判断されているはずです。

まとめ

スタンフォード大はアメリカだけでなく、世界でトップに数えられる大学です。しかしこの大学の選抜基準はユニークで、特にスポーツ推薦として入学した場合、非常に高い入学基準を突破してすごい!と報じると語弊があるように思えます。一方でコーチがこの選手の実力を大きく評価したことは事実で、大学側も少なくとも彼がstudent-athleteとしてやっていける可能性を見出せたから入学許可を出した、というのは間違いないでしょう。

次回はアスリートに対する学業サポートについて紹介しようかな、と考えています。特に私立大学は一般の学生も含めて、サポートが充実していますから。

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