米大学スポーツ推薦で授与されるお金の話

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スポーツ選手の奨学金

実は週の前半にあった休みを利用して、1回目の帯状疱疹ワクチン(Shingrix)を接種しましたが、同じ筋注のはずなのに新型コロナウイルスのワクチンのときより患部の痛みが大きく、持続した感じがします。花粉症の影響も考えられますが、軽い頭痛が起き、多少の倦怠感を覚えました。4日目になった今日だとお陰様でこの症状は消失しています。費用ですが、保険でカバーされていました。

NCAAの規定

D1野球部の場合

米大学における各部活の選手に対するAthletics(以下体育局、とします)からの奨学金枠はNCAAにより決められています。授与出来る枠は各大学が所属するデビジョン(日本語だと1部とか2部とかのカテゴリー)により違います。部活によってもその数は代わりますが、前回の続きとして野球部の枠をお伝えします。

スタンフォード大(Stanford University)はNCAAのDivision 1、Football Bowl Subdivision(D1、FBS)に属します。いわゆる一番競技レベルが高い部門です。D1の場合、35人のロースターのうち8人をウォークオン(体育局の奨学金なしの部員。ただし大学側や他の機関から奨学金をもらうことは可能で後述)に割り当てるので、残り27人が体育局による奨学金授与の対象となります。これに対してNCAAによるフルスカラシップ割り当て人数は最大11.7人分です。またNCAAは野球奨学金を受ける選手は全員、少なくとも25%の援助を受けられることを義務付けています。これを最大27人に割り当てるわけです。つまりチーム内で満額もらえる選手もいれば部分的にしかもらえない選手が存在するのが分かるかと思います。

この塩梅を誰が決めるのか?コーチです。大学ではありません。

奨学金はどこから?

体育局による奨学金(athletic scholarship)の源泉は?と言えば当たり前ですが体育局(Atheltics)です。D1の大学だとendowmentと呼ばれる有志の寄付金が大きく貢献しています。ある一定以上寄付をすれば奨学金に名前もつきます。この奨学金ですが一般入学の学生は対象にならないので、某選手が全学生の数%しかもらえない奨学金をもらえた、すごい、という表現は残念ですが間違っていますね。

スタンフォード大の体育局だと去年の寄付金は約$44M(1ドル150円換算で約66億円)です。授与した奨学金の額もスタンフォード大学体育局の収支報告にきちんと記載されています。

FY23 Annual Report

FY23 FINANCIAL OVERVIEWを参照すると奨学金として$31.34M(1ドル150円換算で約47億円)拠出したとなっています。

ただ私立大学だと州からの規制がないので、報告がざっくりです。州立大学の方がもっと詳細に報告しています。例えばお隣のルイジアナ州立大学(LSU)を参照します。以下の報告によると体育局への有志の寄付金は約$33M(約49.5億円) だそうです。

LSU Athletics Contracts & Financial Reports

この報告書には部活別の収支も確認出来ました。昨年全米チャンピオンとなった野球部の収益は$4,037,540で奨学金額は$574,471となっています。この額をざっくり11.7で割ると、一人当たり約$49,100かかったことになります。LSUの学生として想定される2022-2023年度の経費(学費、寮費、食事代、本代、その他費用)は州内の生徒で$35,158、州外の生徒で$51,836ですので、こんなものじゃないかと思います。しかしカレッジワールドシリーズで優勝したLSUでも野球部単体でみると赤字なんですね。

上記のようなフル・スカラシップ(英語だとfull-ride scholarship)は厳密に言うと米国の大学でも6つの部活に限定されています。

  • Football(フットボール)
  • Men’s Basketball(男子バスケ)
  • Women’s Basketball(女子バスケ)
  • Women’s Gymnastics(女子体操)
  • Tennis(テニス)
  • Volleyball(バレーボール)

野球部は「equivalency sports」に分類され、本来なら一人の選手が全額もらうのは稀です。LSU野球部が一人当たりなぜ$49Kを拠出したかはさておき(ご存じの方ご教授下さい)、スタンフォード大のコーチが某選手にオファーした体育局奨学金は恐らく「学費全額免除(+α)」だったのかな、と推測します。均等配分した時選手二人分以上を占める全額のオファーがあった可能性もあります。奨学金も活躍により更新可能な1年間のオファーなのか4年間保証のオファーなのかも分かりません。これは本人と関係者しか分かりません。もちろん学費は体育局のお財布から大学のお財布に納められるはずです。

規制の緩和

学費免除だけでも大変有り難いですが、学生たりとてそれでは生活出来ません。以前はスポーツ奨学金限度額に算入されることなく(=NCAA違反することなく)、選手が別なお財布から追加援助を受けるためには、一定の基準を満たす必要がありました。しかしNCAAは2020年8月より規制を緩和し、大学から支給(academic scholarship)される必要に応じた学資援助や、成績の良し悪しに基づく学資援助に関してはすべてスポーツ奨学金授与限度額から除外する法案を採択しました。

DI Council takes legislative and waiver action

このルール変更により資金に余裕のある野球部、特に学費の高い私立大学で必要な選手により多くの資金を提供できるようになりました。

NCAAの規定外のお財布

留学生の場合

ここからは想像の程度が大きくなります。参考程度にお読み下さい。

留学生の場合、地元地域の奨学金やアメリカ人を対象とした連邦政府によるグラント(e.g., Pell奨学金)は対象外です。アメリカの銀行が提供する学生ローンも利用出来ません。私立大学ならば応募時の成績優秀者に送られる奨学金ももらえなくはないですが、これから入学する生徒が最初からもらうには数学オリンピックで入賞しているとか、特別なことがないと現実的ではないです。言語の習得度の問題もあります。

そうなると家庭の収入や米国外から来るなど学資援助が必要、という理由で大学側から授与される奨学金を検討しているのかも知れません。もしくは例えばD1だけどスポーツ奨学金を出せないIve Leagueの選手がもらうようなリーダーシップ奨学金も考えられます。もしこの推測が当たっているのなら海外からリクルートしたい学生のためにコーチや体育局が推薦状を書き、大学側に今頃猛烈にプッシュしているはずです(笑)。

原資は大学が所有する資産や有志による寄付金、そしてそれらの運用益だったりでしょうか?その額は2023年度末でスタンフォードだと約$36.3B(約5.5兆円)、LSUで約1B(約1500億円)です。

まとめ

選手が米国の大学からリクルートされて競技を行う場合、環境の変化や英語への対応、競技と学業の両立など大変なことが多いけれど、その分非常に恵まれた条件が与えられます。体育局やコーチがなぜここまでするか、と言うとチームが勝ち、観客を呼び込まないと自分の職がすぐ失われるからです。毎日の生活と将来のお金を稼ぐために、極論を言えば選手はアメリカ人だろうとどこの国出身だろうと関係なく勝てる組織を作らないといけないからです。

私が現在勤務する大学(D1、FBS、カンファレンス的には中堅校)にも日本から来たアスリートが在籍しています。一人は昨年卒業されもう一人は今年度から在学で活躍中、そして来年度にもう一人迎え入れる見込みです。異国で勉強とトップレベルでの競技継続はさぞ大変かと思いますが、健闘を祈るとともに応援していきたいと思っています。

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