米国大学の状況について、現場からの私見

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アメリカの大学の選び方

今週末、弊大学の高校生リクルーティングのために借りだされ、親御さんの前で話をし、施設を案内しました。理由は後程書きますが、大学側から教員が求められるもっとも重要な任務(?)の1つとなっています。うちのような普通の州立大学は地元率がほぼ100%。学生は州内の中で自分が合いそうなところ、友達がいるところ、または他よりは少しマシなところを選ぶ、というのが通常です。

私が学科紹介で前に出ると明らかに「?」という表情を見せる方がいらっしゃいますが、もう慣れました(笑)。最初に米南部に住んで〇〇年、高等教育もこちらで受けました、と話し始めると安堵の感情とともに仲間意識が生まれる感じです。例えば「スイートホーム・アラバマ(邦題:メラニーは行く!)」という映画を見れば分かりますが、現代においても南部の人が北部の人に対して持つコンプレックス、言い換えれば悪い意味での地元意識は健在です。ガイジンと言えども、これを理解せずにここでの生活は出来ません。

今回、私が感じる米国大学の選択方法を書き留めます。

私立?州立大学?

トップ校の場合

アメリカの大学の授業料はべらぼうに高い、と言われますが、遠からず近からずです。もちろん一流校はそうですが、アメリカ人の入学者でその金額をそのまま払っている人はほとんどいません。大学がどれだけその志願者に来てほしいかで、色々な奨学金や補助、免除を申し出ます。合格をもらってもそれ以外何もオファーがない場合、「来れるのなら来て下さい」ぐらいの気持ちで、便宜上担当者が事務処理をしたまでです。もっと乱暴な言葉を使えばお金の成る木扱いですが、逆にそれはそれで大学運営に貢献してくれるので非常に歓迎されます。ましてや大量の寄付をしてくれるのなら「是非」となります。

こちらの感覚で言えば「アメリカ大学の授業料高い」、と日本人の両親が嘆いている時点でその家庭環境では子供さんをその大学に入れる資格がない、すでに選考外と考えるのが妥当です。どうにかしたいのなら子供が自分で奨学金や学費免除、もしくは学生ローンを引っ張ってくること。一番手っ取り早いのがスポーツで全米トップレベルにあるか、滅茶苦茶勉強が出来てSATなどで満点を取ったり、数学や理科などのコンテストで全米トップレベルにあったりするかです。

これらも含めて全米トップ校に行きたいけどやり方がわからない、と言うのならば、中学校に入ったぐらいから専門のアカデミック・カウンセラーをつけ、子供の能力に合わせて大学出願までどうやってその子の道筋を決めレジュメを作り上げていくか、プロのコンサルティングを受けるのが近道です。これをやったからと言って必ずしもご子息がIvy schoolやトップ校に入れるかどうかは分かりませんが、確率は間違いなく上がります。まぁ中学高校でもアメリカで学費などで年間3万ドルとかの私立に入れると、学内に経験あるアカデミック・カウンセラーがいるので同様な相談をすることが可能です。ちなみに日本からでも私立なら中学高校レベルでもF-1(学生ビザ)取得可能なので、米国に住居がない人でも子供を通わせることが可能です。

このような過程を経なくても合格する学生はいますが、あくまでも確率論です。Youtubeで動画を見ていると日本でも東大などに合格するにはノウハウの必要性を説いている番組を見かけます。似たような論理かと思いますが、こちらの方が早くから厳密に準備しないとお金が有り余っている家族でない限り一般の家族からトップ校入学は無理でしょう。逆にお金があり露骨に寄付をたくさん出来る家族であれば、アメリカでは正義となり入学の可能性は大きく広がります。これが現実です。

州立大学の場合

上の事例に入らず特別なリクルーティングを受けない場合、地元の州立大学を目指すのが普通です。ここではそこまで良くなくても、お坊ちゃんお嬢ちゃんが集まる地域の私立大学を除きます。そちらはIvyなどのトップ校は無理だけど、(生徒の)振れ幅が大きい地元の州立大学に入れて子供が埋もれる位なら、お金を払っても似たような境遇の仲間と切磋琢磨させ、少人数教育で少しでも質の良い教育を受けさせたいと思う親の願望を満たしてくれます。私見ですが、アメリカという実は異質を好まない社会において、子供をこのような学校に通わせることは理にかなっており十分に価値があると考えます。

さて州立大学でも教育水準の高い州のフラッグシップ校(例:UC BerkleyとかMichiganとか、この辺りだとUT Austin?)は全米から学生を集めることが出来ます。これらの大学って日本だと高評価ですが、州内の学生なら比較的簡単に入れるという情報が欠如しています。入るのが難しいのは州外の生徒や留学生です、悪しからず。世界ランキングに入ろうとも地元民ならそこまで入るのは難しくないです。

話を戻します。普通の家の方が州内で大学を探すとします。州内で探す大きな理由は成績に関係なく「In-State」の学費で通えるからです。「In-State」と州外や留学生が払う必要がある「Out-of-State」の学費を比較すると、同じ授業を受けるのに2~3倍違うのが通常です。学外でも成績が良ければ「Out-of State」の費用が免除されたり、他の援助の申し出があったりするので、合格と言っても様々です。そこでこちらの学生は自分のSATやACTの点、高校の成績(GPA)でもらえる合格のレベルとにらめっこして一番ましな大学に行くか(=学費を多めに払う)、多少レベルを落としても費用を抑える(=奨学金や援助が多い)大学に行くか選ぶことになります。もちろん成績が良ければ選びたい放題となります。進学希望をするが費用をさらに迎えたい学生は2年制短大(Community CollegeもしくはJunior College)経由で3年次大学編入を目指します。

以下に面白いデータを載せておきます。2021年度で州ごとに短大と四大の援助金の違いを比較した図です。私がいるルイジアナは40%ぐらい四大への援助が厚く、短大での講義の質に影響がありうることが分かります。逆にアリゾナやウィスコンシンは短大への援助が十分に厚く、通っても十分な授業を受けられることを示唆しています。

円安の中、留学を検討する人も参考にしてください。

State Higher Education Finance (SHEF) Reportより

並みの州立大学のなりふり構わず度合

補助金大幅減額

州立大学は昔、連邦や州政府から多額の援助をもらって安定して運営をしてきました。ところが2008年度の景気後退時から大幅に予算が減らされました。それまで研究費用取得などを大してせず、踏ん反りかえって経営をしていた州の普通大学は慌てふためきます。どこかの州は下から2番目です。

State Higher Education Funding Cuts Have Pushed Costs to Students, Worsened Inequality (2018)より

パンデミックのお陰(?)で連邦政府から新型コロナ対策予算が入り2021年度は多少盛り返したものの、全米で3%程度学生が減るとともにインフレが起きているため、多くの州立大学で収支は減少しています。2021年度も前年と比べて3.2%減ったと報告されています。

State Higher Education Finance 2021 (Inforgraphic)

お金ないどうする?

こんな状況ですので、ぶっちゃけ州立大学教員の給与は上がらず、上がる機会があってもインフレ率よりはるか下を低空飛行しています。さらに、、、(これを言ったら大学辞めさせられるのでここでは発言を控えます。)教員が辞めても補充出来ない状態です。役職の割に結果を出していないのにもっともらっている方が辞めた方が、、、(以降自主BAN)。

それでどういう判断をしたか、というとなりふり構わず学生を集めよう、ということになっています。なりふり構わず、とは入学基準を多少落としても、もしくは色々な理由をつけて合格にして学生数を増やそう、という考えです。教育の質、研究の向上、という議論はどこかに行ってしまいました。どこかの州ではフラッグシップ大学がいの一番にそれをやっていますから、その下にランクされる大学は連鎖反応で実行することになりました。これが普通の大学の現状です。実際どこの州も大差ないはずです。

州内で学生の取り合いをしても拉致があかないので、州外の学生や留学生獲得にも普及します。上に書いた通り州外や留学生には「Out-of-State」という高い学費を求めていましたが、弊大学ではある一定の条件を満たせば誰でも免除になる制度を作ることを決定しました。

さらに大胆にも大学院生までそれを適用します。

プライドもへったくれもありませんが、大学経営を成り立たせる(=生き残り)という上の強い意志を感じます。どこかの州の問題は別なところにもありますが、それを含めたいいか悪いかの議論は別な機会に譲りましょう。とにかくこれが現状です。

結論

現状アメリカの大学で質を求めるのなら、お金を払ってでも全米のトップ大学に行くことを勧めます。ただし資格や特別職を得るための目的なら、対費用効果を考えた上でお財布と相談しながら行先決定でしょうか。あくまでも主観ですけどね。

注:上の判断ですが、就職、特に日本での日本企業就職までは考慮していません。また大学院、特に博士課程進学を考える場合は別なストーリーが存在します。ご了承下さい。

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