勉強のサポート体制も大学選びの基本
前回、前々回と某日本人選手のスタンフォード大へのスポーツ推薦入学と奨学金について憶測を交えながら記しました。最後にこちらの大学に入った時の学業面でのサポートについて、書こうと思います。大学は違いますが、私が在籍する学科にも多くのアスリートがいます。私は立場上普段から良くも悪くも体育局側のアドバイザーを交えてよく話をし、授業登録や出席、そして成績などで仲裁に入ったり便宜を図ったりする仕事もしています。
練習や試合に参加する条件
学業の負荷
奨学金や立派な施設を利用してスポーツ競技をする学生には、学業面で一定の成績を納めないと練習や試合に参加出来なくなります。スタンフォード大学のHPにも詳細に記載されていました。
NCAA Academic Eligibility Requirements
ちょっと調べるとスタンフォード大はクォーター制(4学期制)を採用しているんですね。これはセミスター制と違い毎学期10週で完結するので、授業の進みが早く、テストに追われる感じがします。セミスター制の大学に通っている人だと毎学期が夏学期の感じでしょうか?
留学生としてそしてアスリートとして毎学期最低12単位を履修しないといけないので、両立は大変だと思います。ただし以下の文章が気になりました。
EACH quarter: you must pass 6 degree-applicable units(毎学期、6単位は卒業に必要なものでないといけない)
ALL STUDENTS – At All Times
この言葉にピン、と来る人がいたら、こちらでアスリートの学業や参加資格に関して通じている人です。私にとってはスポーツ選手優遇処置という点で「やみ」とも言えます。教員の立場から以前このような単位認定導入に反対したことがありますが、政治に押し切られました。短大などでは普通に認められている制度です。(注:うちの大学にはない)。
スタンフォード大でもそんなことあるんだろうか?と思い調べましたが、案の定存在しました。
ATHLETIC 10: Varsity Sport Experience
簡単に伝えましょう。部に入り練習や試合に参加するだけでもらえる単位です。各学期2単位まで貰えて、15回(つまり5年間)繰り返し登録出来ます。AとかBとか成績がつくわけではないですが、立派な単位で 8 activity unitsまで卒業単位に組み込めます。シーズン中に限らず、秋、冬、春学期いずれも登録可能です。賛否両論ありますが、student-athletesには多少の学業の負担軽減となります。これをどう評価するかは各々の判断に任せます。
成績の維持
さらにどの程度の成績を維持しないと選手として出場・活躍出来なくなるのでしょうか?
- 2年生になる前:GPA1.8以上、36単位取得済み
- 3年生になる前:GPA1.9以上、72単位取得済み
- 4年生になる前:GPA2.0以上、108単位取得済み
さらに野球部員としては追加条件がありました。
- 冬学期および春学期に出場資格を得るには、秋学期ですでに資格取得済みの必要あり
一瞬目を疑いました。こんなに低いの?。もしかしたらスタンフォード独自のGPAの算出条件があるのかと思い、確認しました。
How Do I Calculate My Grade Point Average (GPA)?
オールAが4、オールBで3ですから他の大学と一緒です。授業やテストはハードなのかも知れませんが、これで「優秀な」成績を維持しないと練習や試合に参加出来ない、という飾り言葉には疑問符がつきました。「最低条件」ですね。というか逆にこのGPA維持出来なければ必要単位数とっても卒業証書を貰えない、というぐらいの話です。
結論として優秀な成績を維持しながら部活動をしている選手もいるかと思いますが、そうでもない選手もいる、ということです。
アスリート専用の勉強施設
一般の学生の場合
選手として活躍するのに、最低限の成績を維持しないといけないことは分かりました。シーズン中はなかなかオフがない選手はどうやって成績を維持するのでしょうか?
どこかの記事で米国の大学はアカデミックセンターがあり、そこに授業のサポートしてくれる大学院生のティーチング・アシスタント(TA)や専任のチューターが駐在して利用可能、という話がありました。一言で言えば本当です。スタンフォード大に限らずどの大学にもこのような制度があるはずです。
問題は大学側がどの程度の人数のTAやチューターを配置しているか、です。州立大学だと質問に行きたくても特定の科目のTAやチューターの数が十分でないことがあります。予約とろうにも取れない、とっても十分な時間が取ってくれなかったといった事態が発生しかねます。自習場所も混んでいて席が取りづらい、ということも起こり得ます。
Student-Athletesの場合
アスリートは?と言うと、まず一般の学生が利用する所には行きません。彼らには選手専用のアカデミックセンターがあります。通常一般の学生のそれよりも施設が整っており、例えばPCが最新で、個室やグループ用の部屋もキレイで充実しているのが普通です。さらに彼らにはそこに勤務するだけの専任のチューターが配置され、必要なときには必ずいてくれる存在です。
以前在籍した大学だと、アスリート1年生は勉強の習慣をつけさせるために、皆週に10時間とかチューターと会って勉強することが義務付けられていました。成績が良いと時間数が減り、悪いとどんどん増えていく仕組みです。サボると別なペナルティーが待っていました。最終的にいい成績を維持出来ると自分で好きな時間に勉強する権利を与えられ、必要な時だけチューターを利用すれば良くなりました。また2年生以降は寮から出てアパートに住む権利も与えられていました。
例えとして正確でないかも知れませんが、空の旅で言えば一般客は普通の椅子に座ってフライトを待ちますが、エリート客はラウンジを利用出来る、といった感じです。
アスリート専任のアドバイザー
少なくとも数十年前、自分が日本の大学でアドバイザーを通して授業登録することはありませんでした。アメリカの大学だとまずはアドバイザーとミーティングを行い、了承を得てから授業登録するのが普通です。また彼らには何時も誰よりも先に授業を登録出来る権利があるのが常です。
一般に私立大学は州立大学と比較して、アドバイザー一人当たり担当する生徒数が少ないです。うちのような州立大学の場合、アドバイザーはたくさんの生徒を担当させられるので、きめ細やかさを考えると、私立大学のアドバイザーの質に到底叶いません。私立大学の学生はその分多く学費を払っているんですけどね。
アスリートの場合、学科のアドバイザーの他に体育局でもアカデミックアドバイザーがいます。通常、体育局のアカデミックアドバイザーが至れり尽くせりのサポートをしてくれます。言い方は悪いですが成績を取りやすい科目を知っていてそれを取らせ、それでも問題が起きた場合、最大限教員側に譲歩を求めることもあります。コーチは生徒が成績悪いと練習や試合に参加させられないだけでなく、生徒の成績が一定以上だったりアカデミック・オールアメリカンなどを出したり、4年間で卒業率が良かったりすると自分にボーナスが出ることが契約に含まれるので、必死です。この点、体育局のアカデミックアドバイザーはコーチの主張と教員側の反論の板挟みにあうので、可哀想と言えば可哀想なのですが、彼らも自分の職を守るために理不尽と思うことがあっても交渉してきます。私の学科の科目(アスリートは取ることが多い)だったら私が窓口にならざる得ないので話を聞き、お互いの折衷案を練って落とし所を探るんです。正直やっててあまり気持ちのいい仕事ではないです。
まぁアスリートはこうやって最大限のサポートを受け、余程のことがない限り卒業に導かれます。ただ想像するに難くなく、色々と問題は起きてるんです。自分の専攻を卒業前まで知らなかった、という話は少なくないです(笑)。いくつかのリンクを参考までに掲載しておきます。
- UNC report finds 18 years of academic fraud to keep athletes playing
- Some SU athletes said they were forced into majors ‘they did not want,’ following national trend
- Athletes are getting degrees, but does that actually mean anything?
NCAAのミッションにあるような綺麗ごとばかりでない、ということを理解して頂けたら幸いです。色々な異なる経験を経て卒業する学生がいる、ということです。
まとめ
今回伝えたかったことは、アスリートと学生の二足の草鞋を履く人には一般学生では得られない高度なサポートがあることです。それを優遇し過ぎでずるい、と言う意見、もしくは当然、という意見もあるでしょう。日本の大学にはここまでのサポートはないですから。
巷で話題になっている方はスタンフォード大で野球をしながら学生出来る権利を得たわけです。一般の学生と選抜された方法は違い、学生としても違った形のサポートを受けながら授業を取っていきますが、同大学に在籍し将来的に卒業して学位を得ることに変わりはありません。過程は違いますが正当です。
あとは受け入れる社会が卒業した大学名で人を判断するのではなく、その大学で何をどのように学んだかで評価出来るようになれば良いだけの話じゃないんですかね。私見ですが日本は大学名だけに重きを置きすぎているように感じます。
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