アメリカ・スポーツ界で議論する性別に起因する「平等」「差別」の話

Athletes jumping on the floor
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米スポーツにおける性別に関して「平等」とは

先週の寒波後しばらく暖かかったのですが、今日はまた寒くなりました。それでも50F前後だったので、半袖のポロシャツで出歩けなかった、という程度のものです。

ワシントン・フットボール・チームのチアが男女で構成へ

NFLのチアリーダーと言えば、オーディションを勝ち抜いた女性というイメージがありますが、ワシントン・フットボール・チームは2021年度から男女混合のユニットにするそうです。

大学のチアリーディングは男女混合ですが、これがプロであるNFLのチームでも採用するという話です。このような方針にした本当の理由はわかりませんが、男女雇用機会均等とは関係がないようです。記事にも書いてある通り2008年から10年のチアリーダーがカレンダー用の撮影を行っている際、カレンダーとは関係なく衣服がはだけた部分を内部で無断に動画されて共有された、という告発があり、チームはその動画の存在を否定しているものの今月2月秘密裏に和解がなされた、という噂があります。詳細は以下の記事を参照下さい。

そこで新しい幹部を迎えスタッフも刷新し、対外的にイメージ回復のために再出発を図る、というのがもっともらしい真相に思えます。NFLはプロですし視聴者層は男性が多いので、各チームは戦略的に女性をチアリーダーに添えてビジネスを展開してきたと思いますが、社会的規範の点で転換期を迎えているのかも知れません。

トランスジェンダーの選手の女子スポーツ参加を禁じる方針@ミシシッピ

ミシシッピ議会の決定

私自身運動生理の授業を教えているためこの話題は避けて通れないのですが、ミシシッピ州で身体的な性別と自認する性別が一致していない人が、女性のスポーツ競技に参加することを禁じる法案が州議会下院で通ったそうです。

すでに上院で可決されているのであとは州知事が署名するかどうかですが、恐らく署名するだろうと言われています。

この話はスポーツ界で難しい話です。記事でも以下のようなことが書かれています。

While proponents say that allowing an athlete born male to compete in women’s sports gives them an unfair advantage, those against proposals like SB 2536 say they are discriminatory and harmful.(賛成派は男性として生まれた選手が女性のスポーツ大会に出場することを認めると不公平な優位性を与えると言う一方で、SB2536のような提案(今回のミシシッピの法案)に反対する人たちは差別的で有害だと言っている。)

学術的な性別とは

まず英語、特に生理学の世界では性別という単語を以下のように使い分けます

  • Sex=生物学的にどちらの性別で生まれてきたか
  • Gender=社会的にどのようにふるまうか

多くの世界記録を見ればわかる通り、生物的に男性として生まれきた人が有利です。生理学的に言えば男性ホルモンの量が競技パフォーマンスに多いに影響します。動物実験だけでなく、1970年代から1980年代初頭に起きた女子オリンピック選手のドーピング作用による結果からも明らかです。その後オリンピック委員会はドーピング検査を強化しますが、新しいステロイド導入の仕方と検査方法が追い付かずイタチごっこになっていることは事実です。

オリンピックの参加規定と問題

話をジェンダーの件に戻します。トランスジェンダーの選手をどう扱うかは2000年以降に起きた比較的最近のトピックであり、結果的にいうと議論は現在進行中です。東京で行われる(と仮定)オリンピックでの規定は例えば以下のページを参照下さい。

ちなみに新しい規定・ガイドラインは東京オリンピック後に出される予定とのことです。

では東京オリンピックでの規定はどうなっているか、というと、、、

  • The athlete would have to have declared that their gender identity is female, with the declaration unable to be changed for a minimum of four years.(選手は性のアイデンティティが女性であることを宣言する必要があり、その宣言は最低4年間は変更できません。)
  • Athletes would also be required to demonstrate that their total testosterone level in serum has been below 10 nanomoles per litre for at least 12 months prior to their first competition.(また選手は最初の競技会の少なくとも12か月前に、血中の総テストステロン値が1Lあたり10 nmol未満であることを証明する必要がある。)
  • An athlete’s total testosterone level in serum must remain below 10 nmol/L throughout the period of desired eligibility to compete in the female category.(女性というカテゴリで競うためには、血中総テストステロン値がその期間中10 nmol/L以下である必要がある。)

ちなみに通常血中にどの程度の男性ホルモン(テストステロン)あるかと言うと、

です。これを見た場合、オリンピックの基準値はかなり多めにとっていることが伺えます。ところがこの基準値は完全ではなく、問題が生じます。南アフリカの選手で女性として生まれたものの、5αリダクターゼという酵素が欠損しているため血中テストステロン数値が設定された閾値より高い、ということが起こります。

2019年に彼女は医学的に男性ホルモンの数値を抑えない限り競技会に出られなくなり、この決定を不服として先月25日、ヨーロッパ人権裁判所に訴える事態に発展しました。

結論

話が長くなりましたので締めます。元々は平等な条件で競い合う、という精神のもと男性ホルモンに関する数値が決められました。それとは次元的に相容れない人権・倫理的な立場から「トランスジェンダー選手の権利」が主張され、当事者は判断を迫られるようになりました。オリンピック委員会はそれらを解決すべく、生まれた時の生物学的な性別とその後の生理学的数値で出場条件を決めましたが、また新たな対応が求められる、というのが現状です。ミシシッピ州の法案がどの程度これらに考慮して決議されたかは不明ですが、何が「平等」なのかを決めるにはまだまだ時間がかかりそうです。

参考記事:IOC confirms existing guidelines on transgender athlete eligibility to remain for Tokyo 2020

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