米国の日本への渡航勧告をレベル4とした根拠を統計から検証

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データから見るCDCの渡航勧告レベル決定

米国から日本への渡航勧告レベルが4へ

日本語でもすでにニュースになっていますが、米国務省が日本への渡航に関するレベルを2から4に引き上げ、渡航の中止を求める勧告勧告を出しました。

どちらの記事もCDCのガイドラインを元に変更したと書いてあるので、一次情報のCDCのガイドラインを探してみました。

5/24付のCDCによるガイドライン

検索するとCDCの該当ページはすぐに見つかりました。

ページの一番最後を見る限り、確かに今日情報が更新されたようです。
time stamp
トップにある主な情報を見ると以下のようなことが書いてありました。

  • 旅行者は日本へのすべての渡航を避けるべきです。
  • 現在の日本の状況では、ワクチンを十分に接種した旅行者であっても、COVID-19の亜種に感染したりそれを広めたりする危険性があるため、日本へのすべての旅行を避けるべきです。

私の記憶が正確ならば以前から日本政府はビザなしの日本入国を禁止しているから、観光目的での入国は出来ないはずです。今回の変化でどんな目的の入国を制限したいのか、よくわかりません。そもそもCDCはこの間ワクチン接種完了者はマスク外して動いても大丈夫って言ってませんでしたっけ?

渡航勧告レベル4の基準を確認する

1次的な基準

日本や英語の記事で「最近の日本国内での新型コロナウイルス流行の悪化」が理由、と書いてありますが、上のCDCのページにはそこまで書いていません。急にレベルが2から4になるのも不思議です。気になったのでレベル2を4に変更する根拠を探してみました。CDCはその根拠についてもHPで記述していました。

最近の変更を見ると以下のように書いてありました。

  • 4/28、渡航勧告レベルを評価する際に、渡航先でのワクチン接種率とワクチンの効き具合に関する情報を考慮して更新
  • 2/23、2次的な基準を評価するための閾値をこのページに記載
  • 1/29、渡航勧告レベルを決定する際に使用する、アップデートした2次的な基準を含むよう変更

CDCが渡航勧告レベルを3段階から4段階に変更したのは2020年11月21日です。そこでレベル1からレベル4が設定されました(レベル1が最低、4が最高)。これらを決定する基準を見ていきましょう。Primary criteria for destinations with populations over 200,000(人口200,000人以上の目的地の1次的な基準)と書いてあるところが日本に該当するはずです。ここには以下の2つの条件が書かれています。

  1. 罹患率(人口10万人あたりの過去28日間の累積新規症例数)
  2. 新規症例の軌跡(過去28日間において毎日の新規症例が増加したか、減少したか、あるいは安定しているか?)

incidence rate
10万人あたり100人以上がレベル4に相当する、とのことです。日本は約1ヶ月でこんなに多いんだ、と思ってあらためて調べてみました。

あれ?5/24現在で27となっていました。ピークの76%程度、とのことですからピーク時でも27/76*100 = 35.5です。レベル2、じゃないですかね。毎日の感染者数の軌跡も1次的な基準となっていますが、見る限りではピークを過ぎたのに何故今変更?と思います。従って2次的な基準を参照しましょう。

2次的な基準

2次的な基準としては以下のようなことが書かれていました。和訳します。

報告されている症例数や発生率は検査能力によって異なる。CDCでは2つの2次的な基準指標である「人口検査率」と「テスト数 vs. 感染者数の比率」を用いて検査能力を評価しています。母集団検査率とは28日間で10万人あたりに実施された検査の数です。テスト数 vs. 感染者数の比率とは同じ28日間に報告された症例数に対して実施されたテストの数です。

これは国としてのどれだけ対策しているかが問われている感があります。同様に人口20万人の以上の基準を参照します。

2nd criteria

横軸が1次的な基準で日本は左から2番めに該当するはずです。次に2次的な基準で検査数を調べてみます。以下のサイトから日本でどのくらいPCR検査が実施されているか分かりました。

そのページの下に行くと以下のグラフがありました。

期間を4/20-5/20に設定し、この数字が1000人辺りであることを考慮すると、 大体1日で10万人あたりざっくり450人から700人程度検査していることになります。この数字は左の欄でTesting rateを検討した場合、上から3つ目の10万人あたり401-1200人に相当するはずです。次にTest-to-Case ratio(テスト数 vs. 感染者数の比率)を検討します。その数字は以下のページで見ることが出来ました。

上と同様に4/20-5/20に期間を設定します。ここではすでに設定した図を貼り付けます。

A figure to describe test to case ratio

4/20-5/20の期間で日本は5%から10%の間に位置していることがわかると思います。この数字は新規感染者数/検査数であり、CDCが求めるTest-to-Case ratio(検査数/新規感染者数)ではありません。例えば5月20日で見れば90,113の検査に対し、5,484.29人見つかっていてるのでTest-to-Case ratioは90,113/5484.29=16.4となります。つまり逆数が必要で、100/10(10%の逆数)-100/5(5%逆数)の範囲、すなわち求める数値(Test-to-Case ratio)は10-20程度となります。

データから見るレベルの判定

私がデータから数字を読む限り、1次的な基準つまり10万人あたりの感染者数は27-36でレベル2です。2次的な基準のTesting rate(人口検査率)は450人から700人程度の検査率で401-1200人に相当し、Test-to-Case ratio(テスト数 vs. 感染者数の比率)では10-20程度で10-30の項目に該当します。これで縦、横の項目をあわせてたどり着く基準はレベル3でした。

results of level determination

考察

それでは何故CDCは今回日本をレベル4としたのでしょうか?これには基準を記述したCDCの説明を詳しく読む必要があります。

1つ目の懸念

Population testing rates of more than 1,200 tests per 100,000 people over 28 days are considered sufficient to provide an accurate representation of COVID-19 in the destination. Rates less than or equal to 1,200 tests per 100,000 people over 28 days may signify concerns that testing is insufficient and may not provide an accurate representation of the incidence rate in the destination.

CDCは渡航先におけるCOVID-19の正確な状況を提供するのには28日間に渡り10万人当たり1,200 件以上の母集団検査率があれば十分であるが、1,200件以下の検査率は検査が不十分であり、渡航先での発生率を正確に表していない可能性が懸念される、と言っています。つまりCDCは日本では十分にCOVID-19検査が行われていない可能性がある、と見ていることになります。

2つ目の懸念

The preferred level is a test-to-case ratio of more than 30.

望ましいレベルは、テスト数 vs. 感染者数の比率が30以上であると言っています。まぁ10以下であると検査数が足りなかったり、症状のある人だけが検査を受けていて罹患率が過小評価されていたりする、としていますがそれ以上の数字に関してコメントしていないので、この比率を計算するにあたり10-20程度という数字は最低限クリアしているとも言えます。ただ好ましいレベルではない、と考えた方が良さそうです。

またCDCはレベルの決定に対し、以下のように説明を加えています。

If either the population testing rate or test-to-case ratio is low, CDC has less confidence that the reported incidence accurately depicts the COVID-19 situation in the destination. In this situation, CDC adjusts a destination’s THN level as shown in the tables above.

(母集団の検査率もしくはテスト数 vs. 感染者数の比率のいずれかが低い場合、CDCは報告された罹患率が渡航先のCOVID-19の状況を正確に表しているとは考えにくい。この場合CDCは上の表のように渡航先のTHN(Travel Health Notices)レベルを調整する。)

これでもレベルは2から3に変更されるだけです。何を基準に4としたのでしょうか?

3つ目の懸念

他の情報で考慮することに、以下のことをあげられていました。和訳を入れます。

CDCは新規感染率(または症例数)と検査指標が、より高いレベルのTHN閾値を満たし14日間連続してそのレベルを維持した場合に、渡航先のTHNレベルを引き上げます。COVID-19の症例報告数が大幅に増加した場合は、14日前にTHNレベルが引き上げられることがあります。

ではアメリカと日本の新規感染率と症例数を比較します。いずれもOur World in Data(COVID-19: Daily tests vs. Daily new confirmed cases)からのデータです。まずは新規感染率から。

incidence rate per capita

次に症例数。
incidence rate

アメリカが減少傾向を示していても、どちらも圧倒的に日本のが低いんです。それなのに何故レベル4なのか?私見だとマスコミが言う「最近の日本国内での新型コロナウイルス流行の悪化」がメインの理由とは思えません。それよりも4/28のアップデートで伝えた「渡航先でのワクチン接種率とワクチンの効き具合」を多いに考慮に入れたと読んだほうが自然なのでは、と考えます。CDCから見ると「検査数」しかり「ワクチン接種率」しかり、現在の日本の行政の対応に問題があるからレベルを上げた、と言っているように思えます。

しかし逆に日本の行政がCDCもしくは米国務省に要請してレベル4に上げさせ、オリンピックまで海外から極力人を入れずに感染者数を減らし、意地でも開催する方向に持っていく、という深読みも出来ます。これを読まれた皆さんはどうお考えになりますか?

コメント

  1. みずほ より:

    Otas様
    詳しい検証をありがとうございます!!
    日本のニュースではどこもNHKの報道同様に伝えています。唯一、地元の地方紙が一番目のデータ「10万人あたりの〜」を理由に記事を書いていました。具体的数字はうろ覚えで…120人くらいでしたか…。
    ただ、日本で100人を越えた?は疑問で、変だな…と思っていました。
    私は毎日、海外現地ニュースの日本語通訳番組(NHKBS放送「世界のニュース」)を見ていて、今でも日本より新規感染者が多いか同じくらいのドイツでも100人はいませんし。
    でも、そもそも日本は感染状況の客観的データを示していなくて、ちょっと減ったらもう終わったかのように気を緩めます。ドイツは毎日の感染者数と10万人あたりの人数(地域毎)、両方を把握してアナウンスしていました。

    いずれにせよ国務省が総合的に判断したのは、感染が終息に向かう気配がないから、ですかね。

    報道機関は厳密に根拠を調べて欲しいです。
    Otasさんの記事は日本メディア全部集めたとしても、その何倍も秀逸です。仮に寄稿したら一躍、世界的権威に輝くw価値ありだと思います。

    因みに、渡航中止命令と言う人もいます。英語ニュースでも日本のニュースと同じような報道なのかな。

    • みずほ様、コメントそしてお褒めの言葉有難うございます。大変恐縮ですが大袈裟です(笑)。

      私は「NHKのラジオニュース」をポッドキャストで通勤中に聞いていますが(海外にいてもほぼリアルタイムで日本のニュースを聞けるので便利です)、最初に聞いたときみずほさん同様に?と思いました。それで数字を調べてみたところブログ記事のようになった次第です。私は米国務省や日本政府に知り合いがいないので、国務省の判断はあくまでも推測の域を超えません。レベル2を4にまで格上げする人為的な理由をメディアが適切な時期に解明してくれることを希望しています。

      >渡航中止命令と言う人

      英語ではrestrictionで「制限」です。中止ではありません。リベラルなCNN(https://www.cnn.com/travel/article/japan-travel-covid-19/index.html)でも5/27にアップデートされた記事にそのように記述していますし、必要なビザがあれば留学や仕事、そして家族と合流するための渡航は可能と書いてあります。また日本国籍の方は法律的にいつでも帰国出来ますから、去年帰国出来なかった方が色々な事情で子供が夏休みに入ったこの時期に相当数日本に帰国していると聞きます。

      ともあれブログ訪問有難うございました。お時間があるときにまたお越し下さって頂けると励みになり嬉しいです。

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