アメリカのVIP警備を考察
昨日勤務先から自宅に戻ってパソコンを開けたところ、飛び込んできたニュースに驚きました。誰が、というより日本で起きた事件そのものでした。今日は他のことを書こうとしていましたが、触れずにはいられません。
警備・SPの対応
ネットで視聴可能な動画で事件当時の様子を見ました。日本のサイトではなくWSJでしたが。すでに色々なところで議論されていますが、私も?な所があった、と伝えておきます。
在米20年以上、しかもほぼずっと南部在住ですから銃犯罪は身近で起きています。映像を見て違和感を感じた点は2点、1発目が聞こえてから2発目までの間における警備対象者への保護行動、それと被疑者確保の過程です。ただし日本のSPや警察の警備担当者が有事の際どのように行動すべきかを知らないので、批判ではなくアメリカだったら、の話だけをします。
銃声が聞こえた時
自分がこちらで得た偏見でないことを確認するため、調べてみました。面白いことにSP(security police)というのは和製英語でした。知らなかったです。大統領や要人を守る人たちはSS(Secret Service)と呼ばれ、その手順の動画を見ました。以前SSをしていた方が発砲があったときに大統領やVIPをどうやって守ってきたか話しています。
Former Secret Service Agent Explains How to Protect a President | Tradecraft | WIRED
フォード大統領の時
動画では1つ目のエピソードはフォード大統領狙撃の時の話で、10:51付近ですが、
(SS) took the president and covered, and evacuate him. We’re seeing the absolute right thing here being done by the SS.
上の動画より
(訓練通り銃声が聞こえた時には、SSはすぐに背後から大統領を囲みリムジンに避難させようとしていた。(SSに赤丸をつけながら)SSが行った絶対的に正しいことはここで確認出来ます。)
SSは狙撃手と要人との間に身を呈し大統領をリムジンに誘導しているものの、ここで教訓を得た、と言っています。大統領が中に入ろうにもリムジンのドアが開いてなかったのでした。これ以降大統領が車に近づく時は必ずドアを開けて待つようにした、と言っています。なるほど。
レーガン大統領の時
2つ目のエピソードはレーガン大統領狙撃の時です。教訓を踏まえ確かにここでは車のドアが開いていることが確認出来ます。
One of the key element of SS agent is to put yourself between the threat and the protectee. Here, This SS agent makes himself big and absorbs the threat (as) this since is the firearm. This action alone saved the president’s life.
上の動画より
(SSエージェントの重要な要素の一つは脅威と被保護者の間に身を置くことです。ここではSSエージェントは自分の身を大きくし、銃器からの脅威を引き受けていました。この行動で大統領の命は救われました。)
実際、このSSに銃弾が命中していました。逆に言えばそのお蔭でレーガン大統領の被弾は1発だけで済み一命をとりとめました。
別な動画では、実際に身を挺してレーガン大統領を守った人のインタビューがありました。0:48付近の会話を確認します。
The Secret Service: Under fire
インタビューした人が「貴方が銃声を聞いた時、どうしましたか?銃声が聞こえた方に身体を向けたのですか?」と聞くと、以下のように答えていました。
I knew the shot was coming from and (there was) no doubt with my mind. And I turned that direction.
上の動画より
(狙撃されたことに疑いはなかったので、私は発砲された方向に身を向けた。)
それで身を大きく構えた結果、銃弾を胸に受けたそうです。弾は肋骨に当たって肺、横隔膜、肝臓を通過し背中に至ったとのこと。このSSは後で自分がやるべきことはやったものの、大統領に弾が当たってしまったのは事実のため業務失敗であり、悔いが残ったと答えています。生き伸びることが出来てこのようなインタビューを受けられたから言える発言かも知れませんが、アメリカのSSとしての模範解答に聞こえます。
これ以降、大統領やVIP警備で銃弾を浴びたSSはいないそうですが、狙撃があった時はこのように行動するのが彼らの役割・責任と考えて差支えなさそうです。
7/10/22追記
今日Youtubeを見ていたら、SPが安倍さんを守ろうとはしたが間に合わなかったことを示す動画に出くわしました。(防弾)カバンを開けることに集中しすぎて被疑者と要人の間に入れなかったように見えますが、具体的な検証は警察やSPに一任します。
7/11/22追記
上の紹介した動画は今日になって何故か削除されてたので、別なサイトから同様な動画を紹介します。こちらは個人ではなく4大ネットワークの1つCBSのものです。
狙撃犯の確保
これも感覚ですが、米国で犯人が銃を持っている場合、警官は自分を守るためにも銃を先制的に使用します。今回の件では、発砲せず警備の方が走って取り押さえているように見え、被疑者が全く撃たれていないことに違和感がありました。逃走されて被害者が増えかねないことを想定しなかったのでしょうか。
Law enforcement Policy Center – Active Shooter
P14、第三項Responding to active shootersを参照すると、以下のようなことが書かれていました。
A decision to initiate immediate action should take into account whether reasonable belief exists that immediate action, to include use of deadly force, is necessary to prevent
Law enforcement Policy Center
death or serious bodily injury.
(緊急行動の開始を判断する時には、死重者を出さぬよう殺傷力のある武器使用を含んだ行動をすぐ起こす合理性の有無を考える必要がある。)
またその後次のようにも書かれていました。
Officers should also consider whether, given available information, intervention could potentially neutralize the opportunity for the suspect to gain access to hostages or other potential victims or for officers to locate and engage the suspect.
Law enforcement Policy Center
(警官は入手出来た情報を元に、行動することで容疑者が人質や他の潜在的な被害者、もしくは他の警官に近づく機会をなくせる可能性があるかどうかも検討する必要がある。)
厳密に言えば上の例は学校で銃乱射が起きたときの対応が主ですが、公共の場で起きた発砲でも同じ、という仮定をして抜粋しました。もしかしたらVIP警備の手順は少し違うこともありえること、ご了承下さい。
さてSSと警官の役割は警備の上で一緒なのでしょうか?
上の記事を読むと、SSはVIPを保護することに集中し、警察は被疑者と戦い、事件を解決する役割があるようです。もっともSS、警察ともに逮捕権がある、とも書かれていました。またSSは銃の保持も許可されています。
Frequently Asked Questions About Us
実際レーガン大統領が狙撃を受けた時、SSはマシンガンみたいな銃を取り出して対応していました。最近だとペルー大使公邸に窓ガラスを割って侵入してきた男を射殺しています。
- 8 ‘Secrets’ You Didn’t Know About the Secret Service
- Secret Service officers shoot, kill man smashing windows at Peruvian ambassador’s residence
まとめ
私はどこかの国のように誰もが制限なく銃を持てる政策には反対です。一方で銃の携帯が必要な任務につき、緊急時に行動する必要がある人がそれをしないのもどうかな、と考えます。
私は在米期間が長いため、日本にいる方と感覚が違うのは重々承知しています。それでも今回の件ではただ批判するのではなくどう対応すれば良かったか、日本でもどのように変えていく必要があるかを建設的に話し合い、教訓として今後改善されることを祈っています。
コメント
本当に衝撃的なニュースでした。
私も同感で、これが日本で起きた事に凄く衝撃的で感情を揺さぶられました。
インドネシアのお客さんからも
お悔やみメールが来た程です。
亡くなったと知ったのはその連絡が来てからでした。
>たか
コメント有難う。こちらだとVIPの警護の仕方と銃規制が話題になりました。銃社会なので恐らく日本にいる人の感覚とは違う話を聞きました。