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シノファーム製ワクチンが作用する仕組みを理解する

sinopharm vaccine
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mRNAでもDNAでもない不活化ワクチンについて

東京五輪は無観客開催へ

今朝起きたら東京オリンピックは観客なしで行うことを決定した報道を目にしました。英語でも色々なメディアでトップで扱われていました。

Tokyo Olympics Bars Spectators as Japan Declares Covid-19 State of Emergency(WSJ)

What we know about the spectator ban at some 2020 Olympic venues in Japan(CNN)

Tokyo Olympics will take place without spectators (Fox News)

元々海外からの一般客は受け入れない、という決定が数ヶ月前にあったので、この判断に特に目立った論評はなく、事実を書いているだけでした。

デルタ変異種拡大により入院数も上昇傾向

南部でじわじわ感染拡大中

これもニュースに書いてあったことだけを訳しておきます。

アメリカでもワクチン未接種者の間で新型ウイルス感染のクラスターが出ているとのこと。ジョージタウン大学の研究者によるとワクチン接種率が低く人口規模が大きい30の郡でクラスターを特定し、その中でも特に重要な5つのクラスターは、米国南東部の広い範囲に広がっている、とのことです。

読まなくてもなんとなくどこ辺りか推測できますよね?

5つのクラスターは東はジョージア州、西はテキサス州、北はミズーリ州南部までの8州の一部に大きく分かれています。またアラバマ州、アーカンソー州、ルイジアナ州、オクラホマ州、テネシー州の一部も含んでいます。ここルイジアナだと北部のシュリブポート市の名前が上がっていました。ここは元々ルイジアナで一番最初にデルタ変異種が確認された場所です。

これら5つのクラスターが起きた地域のワクチン接種率は27.9%で全国平均の47.6%を大きく下回っている、とのことですが、そうなりますよね、という言葉以外見当たりません。

ルイジアナの場合

同じタイミングでルイジアナの状況が地元新聞に取り上げられていました。

LDH: 59% of COVID-19 cases in La’s region are Delta variant; cases, hospitalizations in state increase

表題の通り、感染の59%がデルタ変異種だったとのこと。この数字は全国平均の52%よりほぼ一緒です。検査での陽性率も多くの地域が上がってきて4%前後で推移しているようです。

ひどかった時期の毎日の感染者数が多かったのでここ数日の上がり幅(@縦軸)が見づらいですが、下の14日平均で109%、入院者が16%上昇していますから、傾向としてはあがってきている感じです。

ちなみに今日現在でのルイジアナ州のワクチン接種率は以下の通り。

マスク着用、社会的距離の維持などの規制は全くありませんから、ウイルスが広がり、変異して生き延びる素地は多いにあるといえるでしょうね。また10万人あたりの感染者率はここ7日平均で14人ですが、以下のNHKのデータと比較すると日本ではトップ5に入る数字です。

直近1週間の人口10万人あたりの感染者数

ちなみに私は日本の基準を知らなかったのですが、直近1週間の人口10万人あたりの感染者数が「25人以上」になると感染状況が最も深刻な「ステージ4」、「15人以上」になると、感染者が急増している段階である「ステージ3」に相当するそうです。なるほど。

シノファーム製ワクチンはどう作用するか?

中国製ワクチンの効きがあまり宜しくない、という話が何度かニュースになっていますが、そもそもシノバック製、シノファーム製とも生ウイルスを不活性化したワクチンです。製造方法としては従来のやり方を踏襲し、mRNAワクチンやウイルスベクターワクチンと比べて長く使われてきた、という実績の面では安心出来るはずですが、ワクチンそのものを頭ごなしに否定する方は効果が低いとしてこれも受け入れられない、という話を耳にしたことがあります。難しいですね。

さてシノファーム製のワクチン製造とその作用について簡単に説明してみます。元ネタは無償でそのページを閲覧出来るニューヨーク・タイムズの記事です。私の検討違い、翻訳ミスがあれば原文を参照いただけると幸いです。

How the Sinopharm Vaccine Works

なお下図の著作権はニューヨーク・タイムズにあります。日本語に変換したのは私ですが、要請があれば図は引っ込めますのでご了承下さい。

ワクチン製造に関する時系列

製造方法

コロナウイルスから作るワクチン

BBIBP-CorVは、SARS-CoV-2コロナウイルスに対する抗体を作るように免疫系に働きかけます。この抗体はウイルスの表面に付着しているスパイクタンパク質などのウイルスタンパク質に付着します。

北京生物製品研究所の研究者たちはBBIBP-CorVを作るために、中国の病院で患者からコロナウイルスの3つの変異体を入手しました。そのうちの1つがバイオリアクター・タンクで培養したサルの腎臓細胞で急速に増殖することができたため、研究者はこのウイルスを選びました。

ウイルスの不活性化

研究者たちはコロナウイルスを大量に生産した後、β-プロピオラクトンという化学物質をコロナウイルスに投与しました。この化合物はコロナウイルスの遺伝子に結合します。その結果コロナウイルスは活性を失い、不活性化されたコロナウイルスはそれ以上複製が出来なくなりました。しかしスパイク部分をはじめとするタンパク質はそのまま残っています。

次に研究者は不活性化されたウイルスを取り出し、アジュバント(免疫補助剤)と呼ばれるアルミニウムベースの化合物を少量混ぜました。アジュバントは免疫系を刺激して、ワクチンに対する反応を高める働きがあるものです。

不活性化されたウイルスは100年以上前から使用されてきています。ジョナス・ソークは1950年代に不活化ウイルスを使ってポリオワクチンを開発し、狂犬病やA型肝炎など他の病気に対するワクチンの基礎にもなりました。

免疫反応の促進

BBIBP-CorVに含まれるコロナウイルスは死滅しているため、腕に注射してもCOVID-19を発症させることはありません。不活化されたウイルスの一部は体内に入ると抗原提示細胞と呼ばれる免疫細胞に飲み込まれます。

抗原提示細胞はコロナウイルスを引き裂き、その断片の一部を表面に表示します。いわゆるヘルパーT細胞がその断片を検出します。断片がその表面タンパク質の1つに適合するとT細胞は活性化され、他の免疫細胞がワクチンに反応するのを助けることができるのです。

抗体の作成

またB細胞と呼ばれる別の種類の免疫細胞も、不活性化されたコロナウイルスに遭遇する可能性があります。B細胞は非常に多様な形状の表面タンパク質を持っていますが、コロナウイルスにくっつくのに適した形状を持つものがいくつかある可能性があります。B細胞はウイルスの一部または全部を内部に取り込み、コロナウイルスの断片を表面に提示することができます。

コロナウイルスに対して活性化したヘルパーT細胞は同じ断片にしがみつきます。それが起きるとB細胞も活性化され、増殖し、表面タンパク質と同様な形をした抗体を作り出します。

ウイルスを阻止

BBIBP-CorVのワクチンを接種すると、免疫系は生きたコロナウイルスの感染に反応することができます。B細胞は侵入者に付着する抗体を産生します(上図参照)。スパイクタンパク質を標的とする抗体は、ウイルスが細胞に侵入するのを防ぐことができます。他の種類の抗体は他の方法でウイルスを阻止することができます。

ウイルスを記憶

シノファーム社の臨床試験ではBBIBP-CorVが人々をCovid-19から守ることを示しています。しかしその防御効果がどのくらい持続するかはまだ誰も言えません。数ヶ月の間に抗体のレベルが下がってしまう可能性はあります。しかし免疫系には記憶B細胞と呼ばれる特殊な細胞があり、コロナウイルスに関する情報を何年も何十年も保持する可能性もあります。

まとめ

理論的には効きそうですがシノファーム社のヒトによる治験結果が公になっておらず、諸外国の研究者の批判にさらされていないのが気がかりです。ちなみにサルによる実験の結果は「Cell」に発表され、その論文を読むことが出来ます。

Development of an Inactivated Vaccine Candidate, BBIBP-CorV, with Potent Protection against SARS-CoV-2

ご参考になれば幸いです。

P.S. ノババックス社のワクチンの説明は以下の記事を参照下さい。

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